ちょっと節穴 / A little bit blind

ドラマや映画、音楽について書いてます。時々本も。A blog about dramas, movies, and music. Sometimes books.

カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』ネタバレ感想

けっこうネタバレしてます。ネタバレしててもあんまり気にならない作品だとは思いますが、ネタバレは絶対に嫌! な人はUターンをお願いします!

あと、かなり私の個人的な感想になります。

もしかしたらこの本がカズオ・イシグロの中では一番好きかも知れません。


年老いた夫婦が離れて住む息子に会いに行く旅に出たら、ドラゴン退治もすることになっちゃった! って感じのファンタジー小説。ではなく、まぁそういう感じでお話は進行するんですけど、誰かとの関係について、深く考えさせられるお話でした。

たぶんテーマとしてはそれだけのお話ではないのでしょうが、私が感じたことは、「許す」というのはどういうことか、ということです。

まずは、今現在「誰かとお互いを思いやる信頼関係を築いている」ことが大前提としてあります。
もしもその「誰か」に裏切られたとします。裏切りの形は様々ですが、怒って、許せない、と思いますよね。大前提にあるように相手を大事に思っていたならなおさら、その裏切りへの怒りも激しいものになると思います。そこでまず相手を許すのか否かの岐路に立たされると思います。
でも、もしもその事実をお互いに忘れてしまったら。そしてそこからの生活で素晴らしい思い出をいっぱい作り、絆をより深めることができたら。
そうやって歴史を重ねた後に、忘れてしまった「裏切りの記憶」がよみがえったら。最初の岐路に戻ってしまったら。あなたは相手を許すのか、それとも過去の「裏切りの記憶」に縋って相手を拒絶するのか。元からあったもの、そして忘れてしまっていた間にできた二人の絆を、思い出を、全てなかったことにするのか。それとも新しい絆を取り、過去の裏切りは許すのか。

という、誰かとの関係についてのお話である、と、私は感じました。たぶんこの場合は、許した方が絶対的に幸せになれます。人はつらい思い出の方を心に留めておき、悪い状況のほうを「これが本来の姿だ」と思ってしまいがちです。が、恐らく過去にあった悪いことと、新しく起こった幸せなこと、は切り離して考えるべきなのだと思います。この話みたいに本当に「忘れて」しまえればたやすいことですが、実際にはそんなことは不可能なので、かなりの努力を要することになるとは思います。
でもたぶん、許すということはそういうことなのでしょう。
つまり、「何かしらの悲劇」が起こった後に、お互いが関係を修復するためにどれだけ努力できたか、にかかっているわけです。しかも起こってしまった悲劇は完全に脇に置いておいて、です。正直なところそんな努力をするよりもぶち壊してさっさと新しい関係に行った方がずっと楽ですけどもね。私も夫が浮気したら許すことなんてできないだろうし。
それでももしもそんな状況になったとき、私はどうするか。たぶん許す努力はすると思います。夫とはその努力をするに値するような関係を結んでいる、と少なくとも私は感じているから。まぁ努力した結果許せるかどうかは分かりませんけどね! 私は頑張れてもあっちが疲弊しちゃうかもしれないし、逆に私が我慢できないかもしれないし。
でも一旦「怒り」を脇に置いておいて、努力に長い時間をかけたあと、もう一回「怒り」を取り出してみたら、きっと別の見え方をするはずです。取り出した怒りと積み重ねた努力を天秤にかけて、どちらが自分にとって大切か、必要か、精査することができます。
その時になってみないと分からないことではありますが、許せるといいなぁと思います。あ、「浮気」に限った話ではないですよ! それに取り出してみて「やっぱり許せねぇ!」となったらそれでもいいのです。押し付けるつもりはありません。
ただ、自分にとっては理想かもしれない、と思うだけです。

本の感想じゃねぇじゃん! と思われるかもしれませんが、こんな感じでこっちに考えさせる作品なのです。