ちょっと節穴 / A little bit blind

ドラマや映画、音楽について書いてます。時々本も。A blog about dramas, movies, and music. Sometimes books.

音楽をフラットに聞くのって難しいよねって話 / "Lost in you" by Chris Gaines


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まず前提として、私は音楽や映画、小説の「ジャンル分け」が好きではありません。ジャンルと言う属性よりも作品そのものをフラットに楽しみたいと思っています。

が、「フラットに」というのがいかに難しいのか最近思い知ったよね。

 

↑この曲はクリス・ゲインズというアーティストの "Lost in you" という曲で、1999年にビルボードで5位を記録しました。クリス・ゲインズ唯一のヒット曲で代表曲でもあります。

で、この曲をウィキペディアで見るとジャンルがR&Bソフト・ロック、ポップとなっていて、R&Bがメインのジャンルと言うことになっています。

が、私はこの曲をどこからどう聞いてもR&B的な要素を感じることができないのです。ソフト・ロック、ポップはまだわかるけど、R&B

ジャンルって確かに難しいけどある程度は聞いてれば分かるしこれはどこがR&Bなの? と初めて聞いた時からずっと思っていました。ジャンル分けは好きじゃないにしてもまぁあんまりにもかけ離れて聞こえるもんだからずっと「???」と思っていました。

ちなみに私にはこの曲はポップ要素の強いカントリーに聞こえます。

 

が、それは私の耳がクリス・ゲインズの「中の人」の属性に引っ張られてるだけなんじゃないかという疑惑が下のチャイルディッシュ・ガンビーノによるカバーバージョンを聞いた時に湧き上がってきました。

 


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これはかなりR&Bに聞こえるんだよね。大してアレンジが変わってるわけでもないのになぁ。これはチャイルディッシュ・ガンビーノが基本はR&B / ヒップホップアーティストだからかなぁ。と思ったときに、属性を否定したいと思っている私もどこまでも属性に引っ張られて聞いているんだということに気づかされました。

 

クリス・ゲインズの「中の人」とはガース・ブルックスというカントリー歌手です。日本ではあんまりなじみのない人ですが、カントリー界では大御所中の大御所で、アメリカ国内のみでのアルバム総売り上げ枚数が軽く1億枚を超えるというモノホンの大スターです。で、クリス・ゲインズとはそんなガースのオルター・エゴ(別人格)……というか主演する映画で演じるはずだったキャラクターです(残念ながら映画は頓挫した模様)。普段の「ガース・ブルックス」の時とは違ってロック・アルバムと言うコンセプトでクリス・ゲインズのアルバムは作られました。

 

で、私の耳はこの「ガース・ブルックスが歌ってる」という事実から離れてこの曲を聞くことができないんですよね。どうしてもカントリーっぽく聞こえてしまうというか……カントリー特有のこぶし回しとかもしてないのに、どうしてもカントリーっぽく聞こえてしまうんです。てゆうかこのアルバムに入ってる曲でカントリーっぽく聞こえないのってクロージング・ソングの "My love tells me so" だけなんだよな……。

クリス・ゲインズがガース・ブルックスだって知らずに聞けてたらよかったのかもしれないけど、そもそも私はガースの新譜だからという理由でこのアルバムを手にしているので「ガース・ブルックスだと知らずに」聞くことは不可能なんですよね。アルバムタイトルも "Garth Brooks in ...The life of Chris Gaines" だし。

同じくチャイルディッシュ・ガンビーノの曲はどう聞いてもR&B / ヒップホップに聞こえちゃうんだろうな。

 

そんな聞き方、音楽にもアーティストにも失礼なんだけどね。もっとフラットに聞けるようになりたいなぁ。

 

 

以下は完全なる余談です。

 

このクリス・ゲインズ名義のアルバムはアメリカで惨敗しました。

ガース・ブルックス本人がそもそもカントリーの熱心なリスナーと言うわけではなく、単に歌手としてカントリー向きだったからそっちで歌手活動をしていたという経緯らしいので、ホントはずっとロックアルバム作りたかったんだろうなぁと思います。本人はジャーニー、カンザス、キッス、ボストン、ジェームズ・テイラーなどがお好みだった模様。歌唱力はヒッジョーに高い人なので、そういう音楽やってるのも聴いてみたかったけどね。

とにかくこのアルバムはガース・ブルックスの初めてのロック作品として作られました。ビジュアルもそれまでの「陽気で明るいアメリカのお兄ちゃん」路線から一気に不健康そうでダークな路線に。プロデューサーにロック界の重鎮、ドン・ウォズを起用していることからもその本気度がうかがえます。

が、カントリーのファンはなんだかんだで保守的な人が多いのでジャンルや見た目を変えることを許さなかったわけです(今のカントリー界は若いスターも多くてもっとフリーダムな感じですけど、22年前はまだまだでした)。音楽そのものは悪くなかったので、アメリカ内外での批評家受けは良かったみたいですが。

そしてYouTubeのコメント欄を見る限り、現在も評価を二分しているという……。やっぱり若い人ほどこのアルバムと言うか路線には好意的な感じです。否定的な人はまずビジュアルをバカにしている……そこしか攻めるとこがないからか。でもそういう論争がいつまでもあるアルバムって結局すごい作品なんだよね。