ちょっと節穴 / A little bit blind

ドラマや映画、音楽について書いてます。時々本も。A blog about dramas, movies, and music. Sometimes books.

『グリーンブック』ネタバレ感想

結構賛否があったこの作品のアカデミー賞作品賞受賞ですが、人権問題を絡めた娯楽作品としてはかなり出来のいい映画だったと思います。
内容に厚みがあったかと言われると、『ブラッククランズマン』とかと比べるとそりゃ薄いよねと言わざるを得ないのですが(観客として想定している範囲が広いので当然こうなるのですが)、とても楽しめました。この手の映画は重くし過ぎると万人受けしなくまりますし「人権問題入門編」としてはこれくらいがちょうどいいんじゃないかなぁというのが個人的な感想です。
 
で、「重くなり過ぎなかった」要因ですが、個人的にはヴィゴ・モーテンセンの功績が大きかったと思います。ヴィゴの肩に力の入っていない雰囲気のおかげで、ともすると悲惨な空気で満ちてしまう作品が明るくふんわりしたムードに包まれていたと思います。
 
トニー(ヴィゴ・モーテンセン)が用心棒兼運転手を務めたピアニスト、ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)は
 
「成功していて教養もあるアフリカ系アメリカ人の上にゲイ」
 
という、当時の時代背景を考えれば何重苦を背負っているのだよと言いたくなるようなキャラクターです。
なので、誰かの評論でも読んだのですが、彼の苦悩は「単にアフリカ系であること」ではないわけです。一般的な「アフリカ系」のコミュニティにも属せないし、かといって白人社会にだって受け入れられてるわけじゃない。インテリ層は自分がリベラルであることを示すためにシャーリーの音楽を聴くけど、決して「同じ土俵」には立っていない。
 
一方のトニーは典型的なイタリア系アメリカ人で、どうもマフィアとも普通につながりがある様子。まぁ、コパ・カバーナの用心棒やってくらいだから堅気ではないですよね。
で、彼の人物描写として面白いなあと思ったのが、アフリカ系の人間には偏見があるのにセクシャリティには鷹揚なところです。
 
「いろんな人間がいるさ」
 
と。
 
でもこれってものすごく人間的な話だと思います。
 
この前『ブラッククランズマン』の感想でもちょこっと書きましたけど、例えば人種差別撤廃を訴える人が平気で男女差別をしていたり、セクシャルマイノリティの権利を訴えながら部落差別をしたりする人は普通にいるものです。それが人間なんだよなあと。全く美しくないですけど。
 
そういうところまでちゃんと描いていたのが面白いと思いました。
 
差別などの人権問題は、社会全体でどうにかしなきゃいけないことであるのは当然なんですけど、現実問題としてはこういう「個人間の交流」を広げていくのが一番地道で確実な解決方法なんじゃないかなぁと思います。