主人公の画家は渡辺謙さんが演じられるそうです。
読んだのが10年近く前なので内容は全く覚えてないんですけど、『日の名残り』と核が似ている話だったような気がします。
戦争中に「自分は正しいことをしている」と信じてとった行為が、果たして本当に正しかったのかどうか、みたいな。『日の名残り』のほうは、ダーリントン・ホールというお屋敷に勤めていた執事のスティーヴンスが、戦争中に主人が取った行動が正しかったのかどうかを「自分はそんなことを考える立場にはない」と思いながらも言葉にならないような形で逡巡するような話だったので、『浮世の画家』は『日の名残り』に至るまでのステップみたいな話ですね。
たぶん小説家としては当然できることなのかも知れないのですが、カズオ・イシグロの小説のすごいところは、直接的な言葉を一切使わずに、主人公の悩みや考えを表現するところです。見かけ上はまったく別のことを話しているのに、読者は自分で「あれ、これって……」と考えてしまうような表現をする。しかも小難しいことは書かれていないあたりがすごいのですよね。
この『浮世の画家』はカズオ・イシグロが「自分の中にある日本の記憶」を表現した小説でもあります。ご本人もよくおっしゃってますが、「本当のリアルな日本ではなく、5歳のころの自分の記憶としてある、ファンタジーの日本」なんだそうです。さすがに本当におかしくならないように、ご両親には意見を仰いだそうですが(『遠い山なみの光』の方だったか忘れましたが、「天皇陛下の銅像」が建っていると書いてあった箇所はご両親から「それはありえないから」と言われて削ったそうです)。