ちょっと節穴 / A little bit blind

ドラマや映画、音楽について書いてます。時々本も。A blog about dramas, movies, and music. Sometimes books.

カズオ・イシグロ / 遠い山なみの光

今のところ、カズオ・イシグロの小説は『充たされざる者』以外は全て読んでいます。どの小説もすぐに引き込まれて読み終わるのも早かったのですが、『遠い山なみの光』だけは苦労しました。
話は面白かったので、訳に違和感があったのが原因だと思うのです。
それも文章に違和感があるというのではなく、登場人物たちが人を呼ぶ時の呼称(というのでしょうか)がおかしく思えて、没入できなかったのです。
 
舞台は多分昭和20年代の長崎県です。
主人公は結婚していて、話の中でお舅さんが遊びに来ているのですが、お舅さんのいる前で夫のことを「二郎」と呼びます。こんなことって、ありだったのか? 現代の日本でも、夫の親の前で夫のことを呼び捨てにするというのはなかなかのチャレンジだと思うのですが……。そうかと思うと、近所に住む佐知子の幼い娘のことは「万里子さん」と呼びます。この時代はちゃん付けはあまり一般的ではなかったんでしょうか。
舞台が現代(恐らくは1980年代)のイギリスに移ってから、主人公の娘のニキが母親のことを「お母さま」と呼ぶのもなんだか妙に思えるし……。
 
そんなこんなで、これらの呼称が出てくるたびに引っかかりを覚え、なかなか前に進めませんでした。めっちゃくちゃ細かいことではありますけど、一度こうゆうことで引っかかるともう上手く物語の世界に入り込めなくなってしまうタチなので、あぁ、苦労した。話は面白かったんですけど(そして訳も文章にはなんの違和感も感じなかったんですけど)ね。
 
私が読んだのは2001年に出た改訳版なので、もしかしたら昔『女たちの遠い夏』のタイトルで出たバージョンはこうではないのかもしれんと思い、もう一冊購入するかを検討中です。ただ、旧訳版も改定版も同じ人が訳しているので細部は全く同じ、という可能性もなきにしもあらず。うーん、悩むなぁ。