ちょっと節穴 / A little bit blind

ドラマや映画、音楽について書いてます。時々本も。A blog about dramas, movies, and music. Sometimes books.

『Song for Marion / アンコール!!』 ネタバレ感想

頑固ジジィをやらせたら右に出るものはいない、テレンス・スタンプのアイドル映画だヨ!
 
明るくて優しくてみんなの人気者のマリオン(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)。
彼女は数年前に癌を患い、車椅子生活を余儀なくされているけれど生を楽しみ、「年金ズ」という老人コーラスに参加している。
一方、頑固なくそジジィのアーサー(テレンス・スタンプ)。
妻、マリオンに首ったけ。でもマリオンのコーラス仲間へはとことん塩対応。なんなら積極的に毒を吐く。でもマリオンと二人っきりの時のデレぶりがまたファン心をくすぐります。
 
内容はまぁ簡単で、くそジジィは妻を介護していて、妻のコーラスの送り迎えはすれど自分は「歌なんて!」と断固拒否の日々。でも途中で妻が亡くなってしまい、支えが亡くなったジジィは半分死人のような状態に。で、いろいろあって、愛する妻の遺志を継いでコーラス大会に出場することになるのでした……。
 
みたいな話です。
これがさ、夫婦愛の話かと思うじゃん。違うんですよ。というか、夫婦愛から入って親子愛で出ていくという作りになってて、そこがすごく良かったです。
 
マリオンの死期が近づき、頑固さに磨きがかかったアーサーへのマリオンからの贈り物が最高です。シンディ・ローパー“True colors” を歌うんですが、こんな歌を自分の為だけに歌ってくれる人を先に亡くしてしまう悲しみはいかばかりか。
家でマリオンに寄りかかって「逝かないでくれ」と甘えるテレンス、もといアーサー。
マリオンが亡くなった知らせを受けて、駆け付けた息子のジェームズ(クリストファー・エクルストン)がアーサーの部屋に入ろうとしたら、中から悲鳴のような泣き声が聞こえてきて、そっとドアから離れる演出は好きでしたよ。
 
で、この息子のジェームズとアーサーはアーサーの性格が原因で上手く行ってないのですが、後半は息子とジジィの話に変わっていきます。
 
マリオンが亡くなって、寂しくて死にそうで、もう行かなくてもいいコーラス教室の前まで行ってはボーっとする日々を送っていたアーサー。コーラスの先生のエリザベス(ジェマ・アータートン)が頑張って誘ってくれて、やっと自分もコーラス隊に参加し、大会で歌うこととなりました。ここで歌うのが、マリオンへの歌じゃないんですよね。ジェームズへの歌なんですよ。エリザベスは優しくておせっかいで、ずっとアーサーのことを心配しています。アーサーがエリザベスに心を開くきっかけになったのが、彼女の弱くてダメな面を見たからっていうのもいいですよね。で、アーサーの息子との仲を心配したエリザベスがハイパーお節介を発動して選んだ曲、ビリー・ジョエル“Lullabye (Goodnight, my angel)” を大会で歌うのです。
マリオンの死後、ジジィはショックすぎて心を閉ざしてしまい、唯一の家族のはずの息子まで拒絶してしまいます。息子は息子で、ただでさえ小さいころから父に距離を置かれているように感じていて、今こそ支え合うべきってときに父親から拒絶されたことでもう父に期待することを諦めてしまいます。
このままではダメだと悟ったジジィが大会に出場して、息子に子守唄を歌ってあげることで、こじれにこじれまくった親子関係がなんとか修復された感じで映画は終わりました。
めちゃくちゃ良くできた映画というわけではなかったですが、悪い映画でもないです。
 
個人的にはナールズ・バークレイの“Crazy” や、チャカ・カーン“Ain’t nobody” あたりがグッときましたね。選曲最高。
 
ちなみに、この選曲に関して「若者の歌を老人に歌わせて笑いを取ろうとしている! 老人を笑いものにするなんて酷い!」と感想を述べている人がいて、「えっ?」と思ってしまいました。いやいや、老人コーラス隊は昔の歌しか歌っちゃダメって、誰が決めたのよ。そしてあそこから「笑いを取ろう」なんて製作者の意図は微塵も感じなかったけど、世の中にはいろんな感性の人がいるものですねとお勉強になりました。しかし、そういう視点を持ってしまうと人生って辛くて苦しくて楽しくないだろうなぁ……。みんなマリオンになって人生楽しもうぜ! 老人になってもエッチでクールな歌を歌おうぜ!