ちょっと節穴 / A little bit blind

ドラマや映画、音楽について書いてます。時々本も。A blog about dramas, movies, and music. Sometimes books.

積読解消月間 第7回『背中の蜘蛛』誉田哲也

インターネットにつながるということは、世界中に繋がってるということ。

例え鍵付きのアカウントであっても、SNSにアップした時点でそれは全世界に向けて発信したのと同じこと。そしてその情報は国家権力の監視対象になっている。

 

監視される側とする側、両方の側面からその恐ろしさを描いたような作品でした。

 

監視される側の人間としては正直、ここまで行ってるなら(っていうか行っちゃってるんだろうし)もうどうでもいいね。抵抗のしようがないもん。監視されて困るほどの人生でもなし。

 

しかし人々の生活を監視する側というのは……。病むよね。こっちはそのうちAIに任せられるようになるんだろうか。でもそうするとよくSFに出て来る『犯罪者予備軍を統計によって抽出して何もしてないうちから排除する』ような世界になりそうな気もする。それこそ本当のディストピアですよね。

 

つまりこの小説は『ディストピアの入り口』が描かれているのか。面白かったけど、読んで明るい気分になる小説ではありませんでした。

積読解消月間 第6回『毒島刑事最後の事件』中山七里

『作家刑事毒島』の続編ですが、所謂「前日譚」で毒島がなぜ警察を辞めて小説家になったのか、が描かれています。

 

毒島というキャラクターが善と悪のスレスレのところを攻めてます。つーか、善でも悪でもないんですよね。本文にも書かれているのですが、そういう価値観の中にはいないキャラクターで、だから魅力的。でもこんな人間が本当にいたら絶対に関わりたくないですね。

積読解消月間 第5回『短篇七芒星』舞城王太郎

舞城王太郎制作のアニメのスピンオフ的な小説だということをさっき知りました(この記事を書くためにウィキペディアを見たらそう書いてあった)。

 

そんなにたくさん読んでるわけではないんですが、好きな小説家です。

 

タイトル通り7本の短編が収録されています。

なんでこんなお話を思いつけるんだろう。とにかく変な世界観。幽霊の話と石の話が好きでした。弾丸の話も好きかも。

読みやすいので1日で読んでしまった。

積読解消月間 ちょっと脱線 信頼関係について思うこと

前回『ある男』の感想で、『忘れられた巨人』の感想を引用しました。

 

hushianna.jp

 

今回読み返してみて、そういえばこの時に書いたことのアンサーになるような経験をしたんだったなぁと思いだしたので書いてみます。

 

子供を妊娠していたとき、許せないことを夫がしました。ちなみに夫の名誉のために言っておくと、浮気・借金・暴力の類ではありません。人によっては「え? そんなこと?」と思うようなことです。でも私はとにかくそれが許せませんでした。「信頼」という大きな樹が切られたように感じていました。

 

そうこうしているうちに子供が生まれ、私は実家に1ヶ月ほどお世話になりました。

そして夫はその間毎日、仕事が終わると実家に顔を出して、できる限り赤ちゃんのお世話をしてくれました。

家も実家も夫の職場に近かった(家=自転車で15分、実家=自転車で5分)のでめちゃくちゃ無理をしたわけではないと思いますが、それでも家と実家とは職場を挟んで反対方向だったし、毎日残業してそのあと来てくれていたので大変だったと思います。

それでも夫はちょっとでも赤ちゃんや私と関わろうと本当に毎日来てくれたのです。

 

で、その姿を見て「あ、違うんだな」と思いました。

「信頼」って大きな樹が一本だけあるようなものじゃなくて、森みたいなもんなんだな、と。

夫は間違いなく森の木を一本切っちゃったんだけど、でも切ったと同時に新しい木もどんどん植えてるから、森が消えることはないんだなとその時感じました(森に火を放って焼き払う場合もあるけどね。それこそ浮気・借金・暴力とか)。

 

だから、関係を維持したければたとえ小さい苗でも植えていくことが大事なんだろうなと思います。そしてそういう思いやりを続けることで木もどんどん成長していく。そうやって森を広げていけば、木が切られて一部が死んでも何とか乗り越えられるんじゃないかな。

 

そう思えてから、私は夫に「許せなかったときの気持ち」をすんなりと話すことができました。「許せなかった」とは伝えてないんですけど(笑)。でも責めるよりももっとずっといい形で気持ちを伝えることができました。夫も落ち着いて受け止めてくれたので、また一本木が植えられたなと思います。

 

あ! ちなみに切られた木は元には戻りません! 切られたまんまです! だから今でもその部分に関してはイマイチ夫を信用してないよ! ほかの部分で補えてるってことです。

積読解消月間 第4回『ある男』平野啓一郎

ネタバレと言えるかはビミョーですがラストの展開にちょこっと触れているので未読の方や映画をまだ観ていない方でそういうのが気になる方は読まないでください。

 

 

 

主人公は弁護士で、過去の依頼人から「事故で夫が死んだので絶縁してた夫の親族に連絡を取ったらなんと全くの別人だったことが発覚したので、死んだ夫が誰だったのかを調べてほしい」と頼まれて死んだ夫の正体を突き止めるというお話です。

 

ミステリーの形はしていますが、メインのテーマはどちらかというと「その人を定義するものは何か」とか「人は何を以って人を愛するのか」みたいなことでした。

そうして人のアイデンティティを探しているうちに主人公のアイデンティティまで揺らいでくるというすごい構造です。

 

ちなみに上記の疑問に対する答えはラストに主人公が依頼人に向けて言う言葉が全てだと思います。私もそう思う。それがいい。

 

ちなみに私はカズオ・イシグロの『忘れられた巨人』を思い出しながら読みました。

↓昔書いた感想です。

hushianna.jp

 

まぁ全然違う話なんですけど(笑)。

 

積読解消月間 第3回『犯罪小説集』吉田修一

実在の事件が元になっている小説。全部で5話収録されていますが、記憶に新しい事件が多くて生々しいです。が、もちろん小説なのでモデルは分かっても全く別の話に昇華されています。

とても面白いんですが、実は4話目の『万屋善次郎』を途中まで読んで止まっています。この事件に関してはちょっと思うところがあって読んでて辛くなってきたので。

 

 

4話を飛ばして5話を読んじゃうかどうか悩み中。

積読解消月間 第2回『コンビニ人間』村田沙耶香

第155回芥川賞受賞作です。

すんごく前に買ってやっと読みました。

 

滅茶苦茶面白くて、でも全体的に薄ら怖い作品でした。

 

主人公はサイコパス的な性質の持ち主でまぁまぁ異常(しかし「普通」にふるまおうと努力はしている)です。コンビニの一部であることに生きる意味を見出していた主人公が一人の同僚との出会いで自分を見失い、廃人寸前になりつつも結局は自分を取り戻すお話です。

めでたしめでたし。なんだろうけども。どこかゾクッとするような(かといって後味が悪いわけでもない)不思議な終わり方でした。

 

主人公の言動を見ていると彼女はどう考えてもまぁまぁ異常。さりとていわゆる「普通の人たち」も「正常」なのかと言われるとそうでもないのでは……と思わずにはいられなくなるお話でした。「普通」と「正常」はまた別の話なんだな。

 

白羽というこれまた異分子感の強いキャラが作中登場するのですが、